ルイ(黒木メイサ)に一目惚れした蜂屋の修(平野勇樹)が、取れたてのハチミツを持ってガーデンにやってくる。「近くにバーがあるから今夜待ってる。なっ!」とひたすら強引にまくし立て、人見知りの岳(神木隆之介)にもお構いなしで声をかけて嵐のように去っていく。
貞三(緒形拳)はずっと診ているご老人の家へ。最近特に病状が悪化していて、東京から来た息子は「大きな病院で治療を受けさせた方がいいのでは?」と、少し非難がましい態度だ。しかし貞三は「お父さんの希望は自宅で死ぬこと。大病院に行けば先端の治療が受けられるかもしれないが、家族は蚊帳の外だ。それより、自宅で死を迎えたいというお父さんと一緒に死に向き合ってほしい」と説得する。
撮影当時、自身のガンが悪化していた緒形さんは、このセリフをどんな思いで口にしていたのだろうか。
夜。修は森のバー(「優しい時間」で寺尾聰がマスターをしていた喫茶店です)でルイを待つ。バーテンと「ルイが来るか来ないか」で賭けをしたが、バーテンの予想通りルイは来なかった。でも修は「へこたれないぞ!」と宣言する。
東京では病身にむち打って働く貞美(中井貴一)のところに同期の内山が訊ねてくる。そう。貞美の元不倫相手、内山妙子(伊藤蘭)の夫だ。内山は「女房と病院長からお前の病状を聞いた」と心配げな表情。貞美の昔の悪事を知りながら「何かできることがあれば」と声をかけるお人好しなのだった。
そんななか、二神(奥田瑛二)が心筋梗塞の発作を起こす。緊急事態だが病院側の万全の態勢で事なきを得たとはいえ、危険な状態に娘の香苗(国仲涼子)は心配そうだ。香苗の献身的な看病ぶりを羨ましげに見つめる貞美を、突然激しい痛みが襲う。
病院に病状を隠している手前、人目につくところで倒れるわけにはいかない。必死の思いで研究室に戻り、大慌てで麻薬パッチを貼り付けると、貞美はそのまま意識を失ってしまう。
夢の中で貞美は過去と現在を往復していた。二神の苦痛の表情とそれを見守る香苗の優しい横顔、そして、つい最近目にした我が子・ルイが踊る姿、そして子どもたちがまだ小さかった頃の楽しい思い出、そして妻の死を知らされた日の忘我と後悔......
目を覚ましたのは部屋をノックする音のせいだった。妙子が貞美を心配して訊ねて来たのだ。「麻薬パッチは足りてるの?」「休暇を取ったほうがいいんじゃないの?」
さすがに限界を感じた貞美が「少し休暇を取るかもしれない」と答えると、妙子は「じゃあ私が泊まり込んで看病するわ」と申し出るが、貞美はその言葉を遮るように「これ以上俺を悪者にしないでくれ!」と叫びくずおれる。自業自得とはいえ、素直に頼れる相手をなくしてしまった貞美の心は今、引き裂かれてるのだ。
夜。二神の回診に訪れた貞美を香苗が「ちょっといいですか?」と外に誘い出す。連れられた先は駐車場で、そこにはトレイラーが一台。香苗に促されて車内に入ると中には医療機器が詰め込まれていた。
「父が、医療機器を含めてこの車一式を先生に、と言っています。費用も手続きも済んでいます」と香苗は貞美に説明する。二神が自分の療養用に用意した車だったのだが。そして香苗は貞美に、「先生は父に何か言ったんですか?」と訊ねる。
聞けば、二神は貞美と話した直後から人が変わったようになり、香苗に見せたこともない優しい表情で「ありがとう」と言い、そして香苗の前で泣きじゃくったという。貞美はこの話を聞いて、二神が死に向かう準備を始めたことを察するのだ。
そして、自分自身も死に向き合う決意をする。手始めに家に帰って「尊厳死」のための手続きをし、翌日には茜(平原綾香)に会い「しばらく会えなくなる。いつまでか...わからない」と告げる。茜は「メールで連絡できればいいわ」と、貞美の気持ちを尊重してくれる。
富良野。ルイが苗の買い付けで留守中のガーデンに修がやってくる。ひとりで庭仕事をこなす岳にためらいなく話しかける修。はじめのうち岳はおびえているが、修が花のことをいろいろ聞いてくれるのでだんだん楽しくなり、さらには修が自分で世話をしている蜂一匹一匹に名前をつけてかわいがっていることを知ると俄然、修に信頼を置き、蜂の巣箱を見学させてもらうまでに急接近。岳は修のリードにすっかり乗せられてしまう。
ガーデンに戻ったルイに、岳が修の伝言を伝える。「バーで待ってる。来るまで待ってる」 引っ込み思案の岳をここまで手なづけるとは、ルイは少しあきれながらも修の熱意に負けそうだ。
ガーデンを仲良く世話するルイと岳。カメラが引いていき、森の中にひっそり停められたトレーラーハウスが大写しになる。そうです、ついに貞美が子どもたちの側に帰ってきたのでした。