富良野の開業医・白鳥貞三(緒形拳)は通称あかひげ先生。町の老人宅に往診に出かけては「で、留学に行った息子さんは? ほぉ、東京で10年も! 奥さんは?」という会話を何度もループさせる痴呆老人(大滝秀治さんですが...)の相手を笑顔でこなす。
一緒に暮らるのは知的障害を抱えるも穏やかに生きる14歳の岳くん(神木隆之介)と、イギリスでガーデニングを学び祖父母が始めた庭園・風のガーデンを引き継いだ岳くんの姉、超美しいルイさん(黒木メイサ)。で姉弟の父は?母は?
場面変わって東京・高林医大病院。白鳥貞美(中井貴一)はここの麻酔科の准教授。一日中オペの予定が入り、学生に好評な講義の最中にも緊急の呼び出しがかかる。上司からの信頼も厚く、部下からも慕われ、看護士への気配りも怠らぬ非の打ち所のない男だ。
しかも「女関係」も不自由ない様子で、看護士長の内山妙子(伊藤蘭)が仕事の合間に声を落として「お疲れね。今日お夕食作りにいきますから」と話しかけてきても、「まだお仕事~」と交わしたりして。
一日の仕事を一段落させ貞美が自席に戻ると、机に院長からのメモ。指示通り電話を入れると「今から少し話せないか」と院長室に呼び出される。用件は霞ヶ関病院で行われる進行性すい臓ガンの手術を手伝いってもらいたいというもの。心臓に持病を持つその患者はかなりのワケありらしく、霞ヶ関病院の院長から直々に申し出があったというのだ。
その夜、貞美は行きつけのバーへ行った。隣の席には娘といってもおかしくないほど若い彼女・茜(平原綾香)がいた。茜はホテルのラウンジなどで歌っている。貞美とは喉の治療で世話になって以来のつきあいのよう。傍らでキラキラと笑う茜と過ごす時間は貞美にとって貴重な癒しの時間なのだ。
家に帰っても、趣味のチェロを弾く以外とくにすることもない。ひとり暮らしなのだ。家族は富良野にいる。しかし訳あって会えない。貞美はその理由を思い出すたびに辛くなる。一体何があったのか?
霞ヶ関病院へオペの打合せへ。院長は「手に負えない状況なら患部を切らずそのまま腹を閉じる。その際、痛み止めの処置を施してほしい」と貞美に言う。さらにどんな結果であれ「初期のガンで、患部はすべて取ったことにしてほしい」と。手術を依頼してきた政界のお偉いさんからの、それが絶対の指示だという。
帰りがけ、姉・冬美(木内みどり)の家を訪れた貞美はそこで子供たちの近況、そして妻の7回忌の報を聞く。「もうそんなに経ったか...」 貞美は遠い目。
岳は昨年、祖父・貞三に引き取られ、風のガーデンで植物の世話を手伝っている。記憶力がよく花の名前や特徴を暗唱したり、音感も優れていて調律の才能も発揮しているらしい。イギリス帰りのルイは6月に札幌であるよさこいソーラン祭にダンスチームの一員として出場するらしく練習に励んでいる。雑誌の取材を受けたルイの写真を見せられながら、「たまには会いに行ったら?」という姉の言葉に貞美の心が揺れる。
患者は二神達也(奥田瑛二)という名だった。手術の説明にと病室へ赴くが、付き添いに来ていた娘の香苗(国仲涼子)は「父は下の駐車場」と。?? 行ってみて事情がわかった。二神はトレーラーハウスを改造してトレーディングルームを作り、そこで紫煙をくゆらせながら株取引の指示をしていたのだ、手術前に。貞美が「説明を...」と声をかけても「痛いのは勘弁だ。寝てるうちに済ませてくれ」とそれだけ。なんだか徹頭徹尾怖いこの人は政財界の影のフィクサーだったのだ。
二神の手術。腹を開けてみるとガンは予想以上に広がっていた。院長の指示通り、患部はそのままに痛み止めの処置だけして腹を閉じ手術終了。仕事を終えた貞美は香苗に呼び止められる。「患部は取ったと説明を受けましたが本当ですか?」と疑っている。父親の回りにはカネのことしか考えずに父を利用しようとする人ばかり。父も病気はカネで治ると高をくくっている。自分は延命より父の苦しみを早く取り除いてあげたい...と。
両親が離婚し母と暮らす香苗だが「法的には別れても父は父。一緒にいてあげたい...」という言葉に貞美は「手術は成功ですよ」と作り笑い。内心、思い出していたのは富良野にいる家族のことだった。
富良野。ルイはよさこいソーラン祭に仲間とダンスチームを作って出演予定で、その練習に打ち込んでいる。休憩時間、汗を拭きながらふと目が向くのは同じチームの妻子ある男。実は、ルイはこの男(私見ですがただのオッサン)と不倫関係を続けてるのだ。父ほども年の離れた男に安らぎを見いだすルイと、娘のような茜を彼女に持つ貞美...う~む。
貞美には気がかりがあった。最近、腰のあたりに嫌な痛みを感じるのだ。で、血液検査を受けていたのだが、その結果が出た。病院のシステムに入り、自分のカルテを確認した貞美の顔色が変わり、意を決して向かったのは深夜の処置室。誰もいないなか機器の電源を入れ、自分で自分の腹部をエコーで検査する。そこには怪しい影が...それもあちこちに...。帰宅し、改めてエコー写真を見る貞美にはもう顔色がなかった。まさか自分が...ふと、リビングに積まれた雑誌に目がとまる。開いたページには娘が優しく微笑んでいた。
風のガーデンは緒形拳さんの遺作となりました。合掌。